偽物とはいえ人間を倒すのは気分が良くない。それが見知った仲間や自分自身の形をしていると尚更で、最初にイミテーションの相手をした時は泣きそうになった程だ。そんな考えを持ち続けているのはどうやらオレだけのようで、他の仲間はただの偽物だと割り切っている。どうしてそんな冷静なんスか。一度俺が困り果てた時、同じくイミテーションの相手をしていたクラウドに相談したことがあった。この世界の探索するうちに一緒に行動することが多く、その度にオレの話相手にもなっていたクラウドに対しては親近感があったし、ほんの少しだけ(まあ本当の事言うと半分は期待していたけど)俺の気持ちを分かってくれるものだと思っていた。
「あれは俺達とは全くの別物だ。割り切った方が楽になる」
…結果はこれである。言われた後に肩をポンポンと叩かれたが、全く慰めにもなってない。思わず溜息ついてその場で屈み込みたくなったが、そんな暇もなく例の操り人形はオレ達の元へ現れる。
「…しつこいっつの!」
剣を構え気持ちを強引に引き締める。割り切れない自分が、只々悔しい。
でもふと考えることがある。こいつらに心が、感情が生まれたら。今までと同じように倒せるのか?
「またお前かよ…」
上半身はベストだけ、手足に甲冑…のようなもの、見るからに軽装で、ひょっとしたら俺と同い年のような、知らない誰かの偽物。硝子細工のような形でもその姿は特徴的で、何より他の仲間ともカオスの奴らでもない人間だった為、妙に覚えていた。これで戦うのは4回目だ。
そいつは他のイミテーションと様子が違い、攻撃を仕掛けようとしなかった。1回目は自分の気のせいだと思い、そのままオレから一撃をかまして倒した。が、2回目に出会った時、横から滑り込みの攻撃をしようとしたらそいつは視線だけをオレに向けたまま何もせずに倒されてしまった。そして3回目の遭遇、オレがわざとそいつの元へ歩み寄るが棒立ちで見つめ返していた。武器を構える仕草もせずに。
剣を下ろし、数歩その偽物に近づく。しかしそいつは何もしようとせず、オレをガン見している。さらに歩いて近づく。オレの様子を伺ってるのか?それにしては変わらず棒立ちのままで、指すらも動く様子が無い。妙な気分だ。見るからに男である奴からの視線っていうのもあるけど、何か不安感があった。
もっと近づいてみる。偽物との距離は約1メートルまで縮まり、オレは負けじとそいつの顔を見返すことに決めた。ここまで近いと、硝子細工の顔もくっきり分かる。多分整っているだろう顔のパーツ、オレと少し似ている外はねの髪、オレが映り込んでいる瞳。オレは何故だかその眼を可哀想だと感じた。いや可哀想ってなんだよ。こいつは会ったことのない人間で、多分その人間の偽物で、倒すべき敵だ。可哀想も何もない。こいつらに心なんて、感情なんてないはずだ。でも何故か見覚えがある感覚だった。仲間とか知り合いでもない、けれど何処かで微かに見た記憶。
元の世界での記憶を辿る。旅の道中で、暴動や事件に巻き込まれる度に出会った名前も知らない一般人。目の前の危機に怯え何も出来ない人々は、こんな眼をしてなかったか。オレも一緒に来た仲間達も、そんな人達を放っておけなくて必死に救おうとした筈だ。会った事のない人でも、笑顔で過ごして欲しいと思ったから―――
「ティーダ!」
フリオニールの声と同時に背後の気配に気付く。偽物のオレだ。大振りの一撃がオレの頭に直撃する一歩手前、間一髪で真横に逃げる。その一撃はオレのいた空間を通り過ぎ、そのまま見知らぬ偽物を真っ二つにした。
叫びは音にすらならなかった。もしかしたら心を通わせられたかもしれない稀な存在のイミテーションが、よりによってオレの偽物に。途端にオレは無性に悲しくなり、同時にカッと頭に血が昇った。そこから先はあまり覚えてない。でもきっと、がむしゃらにもう一人の俺オレを剣で殴りつけたに違いない。
「…この野郎!」
自分に似た胴体を斬りつけようとした瞬間、相手の動きが急停止し、硝子の体が音を立てて崩れる。矢が5・6本ほど刺さっているのが見えた。フリオニールの援護だ。そうだと分かったから、オレは剣を振りかぶろうとした腕をだらんと下ろした。力が抜けた。いったい何に対して怒ってたのか。一瞬で怒りは消え、息の上がったオレの声が響いているように思えた。
「ティーダ、大丈夫か」
「…平気っス」
「強めの敵だったんだ。ティーダの所へ向かっていったからもしやと思ったけど、無事で良かった」
フリオニールは続けてお疲れ様と言い、オレにポーションを手渡す。そこでようやく、オレの身体がかなりズタボロだったことに気付いた。そんな自分の姿に驚いている間に、セシルやクラウドもオレ達二人と合流した。どうやら別の場所でイミテーションと戦っていたらしい。
「無事なようだな」
「大丈夫そうだね…良かった」
「だから大丈夫だって」
急いで手元のポーションを傷口に振りかける。皆に心配されるのは何だか恥ずかしくて、居心地が悪い。
「それにしてもイミテーションの数が多いね」
「カオスの奴達も警戒しているんだろう」
「だろうな。他の皆にも知らせて―――」
三人の会話よりも、オレはさっきのイミテーションが気になって仕方なかった。戦いもせず、同類に為すがままに砕かれた偽物。……救ってやれなかったんだろうか。
「どうかしたの、ティーダ」
セシルの声で我に帰る。気付くとフリオニールもクラウドも俺の方を見ていた。思った以上にオレはボーッとしていたらしい。
「え?いや、えーと、あのさ」
イミテーションも心はあるんじゃないか、そう言いかけてやめた。きっと信じてもらえない。それに、イミテーションを倒すという皆の士気をオレの一言で崩したくはなかった。出会って間もない仲間だけど、気持ちを共にするチームでもある。だからオレも、一人でうだうだ悩んでる暇なんてない。
「…半裸でベスト着ててさ、手足に甲冑付けてて、俺と同い年くらいの奴って見たことある?」
「見た事はないな」
「俺もないな…多分」
「うん、僕も知らない…と思う」
「そうっスよね…」
あはは、と三人に軽く笑ってみせる。上手く話を逸らせただろうか。オレは心の中で大きく溜息をつき、さっきの偽物についてのゴタゴタを一気に飲み込んだ。
ひとまず他の皆の所へ戻ろう。セシルの提案に他の二人も、そしてオレも受け入れた。どっと疲れが押し寄せる。帰りも三人についていけるのかな、そう思った矢先だ。
「しばらくは俺達の後ろにいろ」
クラウドの言葉にフリオニールとセシルも頷く。疲れ切ったオレの様子を、三人はとっくに見抜いていた。
「大丈夫だって言ってるじゃないスか」
「油断は禁物だぞ。休めるうちに休んでおかないと」
フリオニールはそう言ってオレの肩を軽く叩いた。その慰めが今のオレには少し辛い。が、三人の優しさは非常に有り難かったので、オレは素直に受け入れることにした。
三人が歩き始めた時、ふとさっきのイミテーションの残骸を見る。バラバラになった欠片はもうどちらの偽物のものか区別が付かない。砕かれてしまうとどちらも一緒になる。凶暴なオレの偽物も、オレをただ見つめていたあいつも。オレはどちらのものか分からない足元の欠片を手に取り、空に掲げた。欠片は青い空を写し、光を反射する。少し傾けると欠片の表面にオレの顔が映った。さっきの、あの瞳を思い出す。まっすぐで、悲しそうな二つの眼。あいつは何を思ってオレを見ていたんだろうか。例え砕かれずに済んでも、答えは永遠に見つからない。オレ達の敵であることは絶対に変わらないはずだから。
欠片を少し強く押すと簡単に粉々になり、キラキラとした粒子は風に乗る。呆気なく消えていく。悲しみも虚しさも残して。
「…ごめんな」
イミテーションが敵である以上、きっとあいつを救うことはできないだろう。それでも、何も危害を加えない奴がいたって事を覚えておきたかった。
次に会う時はあいつの手を繋ぎとめてやるんだ。青空に向かって約束をして、オレはフリオニール達の背中を追いかけた。保証はないけどきっとまた会える、そんな気がしたからだ。
戻る